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嘘と幻の彼女。 [ことば]

「春眠暁を覚えず」
と言うが。
まさかこの時期に彼女の話を書くことになろうとは。

彼女の誕生日は4月1日。
エイプリールフール。
まさに嘘と幻を体言する彼女。
約束を破られて、壊れてしまった彼女。


かつて愛した男性の苗字と希望を意味する名を持つ彼女だが、私にはその『希』が『刹』に見えて仕方ない。
無邪気さとはかなさだけで出来ている。

4月1日って始まりの日なのにね、
と笑う彼女と
それって終わりの日ってことじゃん、
と苦笑いする私は

同じ人間で、同じ女だ。


余談だが、
彼女と大切な約束をしたソレ(悪いけど『人』とすら表記したくない。)は、
彼女のことなど無かったように振る舞い続けた。
今になっても胸クソの悪い話。
ソレはまるで何かの制裁を受けるかのようにぐしゃぐしゃに捻り潰されたけど、
彼女が戻ることはない。
だから、「ずっと」なんて軽々しく約束するなって言ったのに。
ちゃんと謝れって忠告したのに。
ナルシストのクズ野郎が!

おっと、失礼。

寧ろ彼女は今までもずっと、このままだったのかもしれない。
それならそれで、
彼女はあの時より幸福なのかもしれない。
私はそのあたりのことは、良く知らない。


彼女は数年前に現れた。
目に一杯涙を溜めて、じっと私を見上げていた。
真っ白な姿が、アンバランスさを引き立てた。
嗚咽を漏らすこともなく、小動物のような目で、
ただ私の目をじっと見ていた。

出会って何年になるかな?
もう数えるのも面倒なくらい、
アンカーになる出来事が増えすぎたんだ。
面倒だよ。
ただ面倒なんだ。
思い出すのがさ。
だって、私もその間で『抜け落ちた記憶』が、忘れていることが多過ぎる。

あまりにも多過ぎる。

こんなもん、クレイジーの領域だ、
吐き捨てる私を、彼女はワクワクした目で見上げる。

…アンタ、これから起こる事が楽しみなのね。
昔から、あたしの今の表情が好きみたいだね。
相変わらず、仕方のない娘だ。


あの時居たのは誰だっけ?

と二人で額を合わせて記憶を探るけど、
ずっと居眠りしていた彼女は

そんなのしらなーい!

と匙を投げる。
ああ、いいよいいよ、
ただし、あたし、それ拾わないからね、
私は自分の理解を悟らせながら答える。

そりゃ、そーだ、

『アンタを眠らせてたのは、私だからさ。』

その言葉を飲み込んだ私を
今度は彼女が哀しそうな表情で見上げた。

真っ赤な目をして。
まるでウサギ。

悪かったよ、
あたしのせいだけじゃないね。
眠ってないといけなかったんだもんね。
アンタがそう選択したんだもんね。

こういうところが、敏感過ぎて可愛くもあり、
ある種タチが悪い。


でも、知ってた?
ウサギって寂しくても死なないらしいよ。
アンタは眠ってて、それも知らなかっただろうけど。

ふーん、
と我関せずで彼女は目を擦る。
どっちでも良い、
いや、寧ろ
どーでも良い
と言わんばかりに。


あの時。
百合の花束を捧げた私に、
彼女は心から嬉しそうに笑った。

その花束の意味を知りながら。

百合は死者に手向ける花。
神聖でいて、純白が毒々しい。
だから、私は百合が好き。
彼女にだって敬意を表してそれを送った。
彼女は純白に見えてそうではないし、
彼女もそれをよく理解している。
ただ無邪気だからこそ。
彼女は全ての意を解ってた。

桜、見たい?
と尋ねると、
いらなーい、
桜きらーい、
彼女は拗ねた。

ああ、そうだったね、
そういえば、あの時、桜の下に同じものを見てたよね、
私も本当は昔から苦手だったことに最近気付いたんだ、

と言ったら

あー、気付いちゃったのー?
やっと気付いたねー、
でも、時間がかかったねー、
ずっと嫌いみたいだったもんねー、
と手遊びしながら笑った。

やっと一緒になったねー、

とゾッとする程の無邪気な顔で。

その顔。
最初に会った頃から変わらない。
そして、私以上に嘘に敏感。

っつーかさ、なんで、今よ?
アンタこそ遅くない?
と彼女に聞くけど、
ニヘ〜ッと甘い甘い顔で笑って何も言わない。

うーむ、仕方ないとわかりつつでも知りたくなってしまうのが私で、
その答えは彼女しか持っていないことも、私達二人は知っている。

どうしたもんかね…

と呟いたら、
ガバッと胸に飛び込んで来た。
うわぁ!
ちょっと、痛いよ!
どんな不意打ちだよ!
尻餅をついて、打ち付けた肩をさすっていたら、

あははー

と笑ってフワフワと跳ねた。
いい加減にしなよ、
と言いつつ、怒る気なんて私にはさらさらない。

お花、変えたほうがいい?

んーん、大丈夫。
まだ綺麗だよー。

そうか。
どうせしばらく起きてるんでしょ?
また会わなくちゃいけなくなりそうだね。

そうだよー、
嬉しいねー、
忘れないでねー、

そう言いながら、またウトウトと彼女は眠りに落ちる。

もう少し話したかったのになぁ。
残念だ。
いや、あんまり起こしていても良くないか。
だって、アンタは


起きていたら歳を取る。


そのままでいたいなら、
そのままでいいよ。

そう言って髪を撫で
丸まった姿にキスをして、
扉を閉めた。


なんで私の周りは、
こんなに不思議の生き物ばかりなんだ(笑)!


時が経つ毎に、彼女の許容量は増えていく。
全てを受け入れてしまうその力。
その自分を許してしまうその貴女。

私には正直、それが、怖い。

お願いだから、そのまま成長しないで。
この世の中は、アンタには見えないほうが良いものが、
あまりにも多過ぎる。
全てを受け入れてしまう、
本当に本当に全てを、全部全部受け入れてしまうことは、
危険過ぎるんだ。
アンタは受け入れ過ぎて、自分を護れない。

そして、
無邪気過ぎるのは、時に残酷に変わる。

鬼が出るか蛇がでるか。

いや、鬼ではない。
ジャが出るかヘビが出るか。
どのみち、蛇しか出ないと思う。
なんにしろ、必ず

死が関わることになる。

あの笑顔の向こうには、とんでもない残忍さの卵が眠ってるのかも知れないなぁ…

とぼんやり思いながら、
どこか少し癒された自分に
けれど、何か返す気もない自分に気付く。

何故だか最初っから対等なんだよね、
私達。


ああ、そうか!

思わず一人で声を上げた。
ニヤリと笑いが込み上げる。

分かったよ。
なんだ、簡単じゃん。

私達はお互い、ある程度なんて以上に

全てお見通し

だってこと。

蛇の道はヘビ…なのかもなぁ。
とひとりごちながら、彼女のうねる髪を思い出した。


とにかく、今は。
今はもう一度、ゆっくり居眠りしてなね。
おやすみ。
また。
必ずまた会いましょう。

純白の部屋で
純白の姿で
ずっと、うとうととし続ける彼女。
いつかすやすやと眠る彼女に会いたいと、
微かに願っている。
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